デュッセルドルフの針金師たち前編
南フランスから来たおとなしい少女が時々小石のペインティングを
売っていた。ユースに泊まって一人こつこつとペイントをしている。
名前をパフという。彼氏はいないみたいだ。ある時朝目覚めてみる

と彼氏はベッドから消えていてそれっきり帰ってこなかったそうだ。
ヒッピー仲間の女性はこのパフとマメタンくらいだったので、時々
ホテルにも泊まりに来た。ダンボールで一杯の狭い部屋で二人は

おとぎ話をするようにぽつぽつとおしゃべりをしていた。この頃は
日本人グループは3つあって。石松縁日金都の夫婦組とよれよれ
ジャガー、日本館組。それにベルリン獣医組だ。

よれよれは刑務所から出てきてアルトに復活した。ある晩、一番角
をよれよれが取っていた。ドイツ人とは古株同士で顔なじみなのだ。
挨拶がてらその作品をまじまじと見つめたが、縁日のほうが上だ。

その日、日が暮れてしばらくして、さあこれからだという時に、その
よれよれが我々の布の上を跳び走って「ポリスや!」と叫んで消えた。
すぐにたたんで待つことしばし、確かにポリスカーはいつものように

来はしたが、緊迫感もなくのろのろと去っていった。刑務所帰りの彼
にはポリスカーの青ランプがよほど恐怖に見えたのだろう。

ベルリンと獣医はベルリンヒッピーの流れでいやな二人だった。かっ
てに5マルクに値下げしたりして皆からひんしゅくものだった。
どこにでも必ずいるなこんなやつ。
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