デュッセルドルフの針金師たち前編
発端はアラブのヒッピーというより、アラブの
出稼ぎくずれの口ひげおっさん達だった。いつも
場所だ商品だと地元の常連ヒッピーともめていた。

全くヒッピーらしからぬ自国のバザール感覚で、
色んなものを路上に並べて売りに来る。かごやら
衣類やらアクセサリーやら。自分達の母国のやり方で、

実際、欧米以外の国々ではどこでもそうなのだが、
それがここでも通ると思っているみたいだ。ところが
時代の最先端を行く格調高い芸術性あふれる我ら

ヒッピーとは相容れない。起こるべくして小競り合い
が起きてきだした。それがだんだんとエスカレートして、
ついに口ひげ出稼ぎアラブが数人でドイツ人の常連の

一人を殴って怪我をさせた。クリスマスの直前である。
そのドイツ人は地まわりのヤクザに何とかしてくれと
訴えた。地まわりはどれがアラブか犯人達かわからない。

とにかくドイツ人以外は全て襲われそうだと言う事に
なってきた。確認をしに行ったフランス人が逆に脅され
て帰ってきた。怪我をさせられたドイツ人たちは狂おし

く怒っている。それはそうだここは彼らの土地なのだ。
クリスマスを目前にしてアルトでいつ何が起こるかわか
らない。その日ユースのメンバーは皆で連絡を取り合って

ナイフやらパイプやらを近くに隠し持ち、フランス人とか
イタリア人とかとも連携して、次の晩は緊迫した一晩だっ
たが、やはりドイツ人は誰も出していなかった。アラブは

というと、全くいつもどおりに派手に販売をしていた。
オサムたちは、はじめこそ緊張と恐れとでビビってはいたが
あまりの人の多さと忙しさとで販売に夢中になっていた。

そしてその晩は何も起きなかった。
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