Forget me not~勿忘草~
第一部
最近の土方さんはなんだかおかしい。



顔つきからしてちょっと…違うんだ。



「おい、総司、早くしろ」







「はいはい…」



ちょっと表情が豊かになったというか…




より一層、島原に行くのが楽しそうなんだよねぇ…



まぁ、元々ソッチの方は得意な人だし、女の人のほうもほっとかないってのもあるけど。





…女なんて、つまんない。



剣の相手をしてくれるわけじゃないし、将棋が指せるわけじゃないし…



まぁ…タダ酒飲めるから行くけどさ。


揚屋の座敷に着いた。



けど…土方さんはあんまりお酒を飲まないんだ。



元々、好きじゃない。



「酒を飲まないで、よく女の相手なんてできますねぇ…」



まだ芸妓が来ないから、土方さんでもからかって遊ぶしか無い。




「お前は…よく呑むな」






「はい、美味しいですよ?京はお酒が美味しくっていいです」



ニッコリ笑って、空のままの土方さんの盃に酒を満たす。







渋々、というように酒を舐める土方さんは、大袈裟に眉を顰める。




「こんなもんのどこが美味いんだ…」







近藤さんといい、土方さんといい…新選組は下戸ばっかり。







―でもおかしいことに、女の酌だと呑むんだよねぇ…




シゲシゲと顔を眺めてやると、「見てんじゃねえ」と手で追い払われた。




ちぇッ…



数本のお銚子をほぼ一人で空にした頃、障子の向こうから声がかかった。





「失礼致します。藍屋の菖蒲の名代で参りました、◯◯でございます」




入ってきたのは◯◯さんだった。




最初に会った時は妙ちくりんな格好してたから、追い回しちゃったけど…



慶喜公に連れてかれて、藍屋の振袖新造になっちゃった娘だ。





チラリと土方さんの顔色を盗み見る。



多分、このところ土方さんが変わったのはこの◯◯さんのせいだと思う。





(どうせ、嬉しくってしょうがないって顔してんでしょう)




それをネタにからかってやろうと、土方さんを見たけど…




…あれ?




苦虫を噛み潰したみたいな顔しちゃって…



「どうしたんです?土方さん」




「ただでさえ、怖い顔が…鬼のようですよ?」






「…うるせえ」



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