Ghost of lost
 カオリが去った後、理恵は深刻な顔をして勇作を見つめていた。
「いい勇作、よく聞いてね。もしかすると彼女は深刻な状況にあるのかもしれない」
 勇作はこんな深刻な顔をする姉を見たことがなかった。
「私はね、人は死んだ後も生前に抱えていた問題を持っていると思っているの。特に心の問題は変わらないまま持ち続けていくのだと思っている…」
 リサは言葉を選んで話そうとしている様に見えた。
「勇作、あなたは何故あの子がつきまとっているのを許しているの?」
「何故って、危なっかしいからさ。僕が見放したら壊れてしまいそうで。それに…」
「それに?」
「リサには記憶がないんだ」
 勇作の言葉にリサはまた俯いてしまった。そして暫くの間、何も話そうとはしなかった。
「姉さん?」
 勇作が姉の顔を覗き込む。
 彼の視線を感じて理恵は自分を取り戻す。
「あの子、二つの心の問題を抱えているようね」
「二つ?」
「そう、一つは記憶喪失。そしてもう一つは…」
「もう一つ?」
「彼女、『ボーダーライン』かもしれない」「ボーダーライン?」
 初めて聞く言葉に勇作は呆気にとられた。
『ボーダーライン』、境界性人格障害という人格障害の一つ。総合失調病といってしまうには症状が足りず、かといって神経症でもない状態のため、神経症と分裂病の境界と言うことから、境界例ともボーダーとも呼ばれている。人に見捨てられることを避けようとする為に、大変な努力をする。対人関係においての評価がとても不安定で、理想化とこき下ろしが激しい。リストカットなどの自傷行為を繰り返したり、過食や拒食を繰り返す。また自殺のそぶりをしたりして脅かす。数時間しか気分が安定せず、極めて気分が不安定である。常に空虚感を抱えている。些細なことで怒ったり、感情のコントロールが出来ない。『ボーダーライン』の特徴を理恵は勇作に話して聞かせた。
「何言ってるんだよ。姉さんはリサと話しもしていないじゃないか」
 勇作は姉に対して抗議をする様に言った。
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