僕らはみんな、生きている。
 麻美の気にしたことは現実のものとなった。男の子が席から離れ、店内のテーブルとテーブルの間を歩き回っている。しかし母親たちはおしゃべりに夢中で、子供のことをまったく気にしていない。
 
 これは注意しないと。麻美は使命感にも似た感情がわいて、動いていた男の子がこっちに近づいてくるのを見計らい、立ち止まるとその男の子に近寄った。

「ちょっといいかな? 坊や、ここはほかの人もいるところだからね、あんまり騒いじゃだめだよー」
 なるべく怖がらせないよう、目をじっと見つつ、優しく話しかけた。
 
 男の子は麻美を上目遣いで見ていたが、何も言わずお母さんのいるテーブルに足早に戻っていった。
 
 これで終わった、勇気を出してよかった、思った。しかしそのとき、麻美は注意した子供の母親が自分の顔を見ているのに気がつかなかった。
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