誰も知らない物語
立て続けに不思議なことが起きている今だったら…空飛べるかな。
なんて、メルヘンな気持ちにもなれた。

「お待たせ!」
背中のドアが開く。
「どう?」
と自慢気に言う。
どう?もなにも、いつもと優香は変わらない。
が、なんか可愛く見えるのが不思議だ。

「まっ、冗談はさておき。瑠奈さん、どうぞ。」
続けて瑠奈が出てくる。

その姿は正に現代人の女の子。
そして…普通にかわいい。
竹取物語にもあるように、本当に可愛いんだと思った。

「なに見とれてるのよ。」
と優香が俺の顔を覗きこんだ。
「べつに、そんなんじゃねぇーよ。行くぞ!」
と言って俺は歩きだした。

違う。
本当はそこから逃げ出したんだ。

アパートの階段を駆け降りる。
瑠奈の服装が優香そっくりでびっくりしたんだ。
優香の服を借りているのだから、普通だが…どうもあの日から優香を異常に意識してしまう。

「ねぇ、今日のニュース見た?」
「あぁ、都内で集団で意識不明者が出たって話だろ?」

階段を降りたところで一組の男女の会話が聞こえた。
ちょっと聞こえた話では“集団で意識不明者”らしい。
…怖い話だ。

「どうしたの?」
俺のあとに降りてきた優香がボーッとしていた俺に声をかけた。
「いや、都内で事件があったらしい。」
とさっき聞いた話を大雑把に話した。
「…いつものことじゃん。」
と軽くあしらわれた。

確かに。
都内で事故事件が起きるのは、もはや普通のことなのだろう。
悲しいことに起きない日の方がある意味不思議だ。

「守、行こう?」
「あ、おう。」
だが、なんだろう。
この胸騒ぎは…。


さっきも言ったが、大学が近い。
歩いて数分のことろだ。
最寄りのコンビニで手頃な茶菓子を買って、甲斐さんの研究室に向かった。

夏休みのはいえ大学教授。
きっと、研究室で古文の勉強でもしているはずだ。

熱いアスファルトの上を歩くのは苦行だ。
「なんという暑さじゃ。私の時代はこれほどの暑さはなかったぞ。」
と瑠奈は文句を言う。
やはり、地球温暖化って本当なんだって思う。

「…じゃが、この衣。風をよく通すのじゃな。」
と服に関しては気に入ったようだ。
ピンクのTシャツに白のレースとショートスカート。
確かに、江戸時代の大奥のお偉いさんが着ているような着物では…暑くてしかたない。

「気に入ってくれてよかった。」
と、自らセレクトした服を気に入ってくれたことに喜ぶ。
そういう優香は…水色のノースリーブにパーカ、ホットパンツの組合せ。
しっかりと瑠奈と被らないように考えていた。

「暑いから、早く行くぞ。」
と暑さから早く解放されたい俺は急いだ。
そういう俺は、Tシャツにジーンズという単調な服装だった。
…お洒落も何もない。
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