誰も知らない物語
告白
目の前に広がる竹林。
月明かりが妖しく辺りを照らし出していた。
その中に瑠奈がいた。
艶やかな着物を纏い、一人の男の下へ。

「かぐや。本当に行ってしまうのか?」
「えぇ。」
様子からしてあれが藤原蓬莱。
でも、顔がこの距離からではわからない。

「何故、月の民は我らを嫌うのだ?」
怒りにもとれる口調。
けれど、その言葉の奥に悲壮感も感じられた。
「地上は穢れそのものだからよ。」
「穢れ…。」

その話は俺も瑠奈から聞いた。
月の民は地上を嫌う。
地上を穢れと言う。

「私たちは穢れかもしれない。だが、君たちも同じであろう。」
「それは、ここに来て知れた。」
「…なら!話せば…」
「無理なのじゃ!」
お互い荒い声になる。

妖しく光る月。
その明かりが二人を虚しく照らしす。
荒い声だけがどこか遠くに響いた。

「無理なのじゃ。兄さんが許さない。」
うわ、でた朔夜。
やっぱりこの時も朔夜が瑠奈を連れ返したんだ。
「なら私は戦う。」
「無理じゃ、敵わぬ。」
「それは分からないではないか。」
そう言い蓬莱は竹藪の奥へと姿を消した。
「何故、私は言えぬ。ただ一言を。蓬莱…。」
ぼやける視界の奥に瑠菜が膝つくのが見えた。

遠退く意識…
「…い、おーい。起きろ!」
誰かの声で遠退く意識が戻った。
いや、正確には…起きた。

「もうすぐ目的地だぞ。」
目の前に優香が立っていた。
どうやら寝てしまったようだ。
…だとすると、あれは夢か。
優香の隣にいる瑠菜に目を写し、考えた。

「なんじゃ?」
「いや、別に。」
夢で片付けられる気がしたけど、前に瑠菜が言っていた。
『夢には意味がある』と。
だとすると、あれは過去の瑠菜…なのか。
…つか、最近の俺の夢凄いことになってるな。

「守、これからどうする?」
「どうするって?」
「あれ。」
と外を指差す。
…が、何も見えない。

「あれって?」
「今、夜なのよ!」
と苦笑いで言う。
「あーなるほど。」
「あーなるほど。…じゃないわよ。どうする?」
と電車のドアが開いた。
「降りる。」
「…確かに。って、そういうことじゃなくて。」
開いたドアをくぐり抜けホームに降りた。
夏だというのにどこか涼しい空気だった。

「とりあえず、やっぱり寝るところ探すか。」
うだうだ言ったことろで今は夜。
蓬莱を探すにも無理がある。
今は体を休めるのが先決であった。
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