クランベールに行ってきます


 研究室に戻ると、結衣の姿を見た途端、ローザンが駆け寄ってきた。

「ユイさん! よかった、無事だったんですね」

 心底安心したような笑顔を向ける彼を見て、本当に悪い事をしたと、結衣は深く反省した。
 研究室に帰る道すがら、結衣はロイドが助けに来てくれた時の経緯を聞いた。

 怪しい青年と共に結衣が研究室を出た後、ローザンはまず貴賓室の使用状況を確認した。もしも、青年が本物の使いだった場合、いきなりラクロット氏に真相を告げては、内密の接触を断りもなく暴露してしまう事になるからだ。
 ところが確認の結果、貴賓室を使用している者はいないという。ローザンは慌てて廊下に出たが、すでに二人の姿は見えなかった。

 結衣の通信機に発信器の機能がついている事を思い出したローザンは、ロイドに居場所の確認方法を訊く事にした。
 ローザンの通信を受けたロイドは、ちょうど王宮に帰ってきたと同時に、結衣の通信を受け取り、研究室に急いで戻った。結衣の居場所を確認し、警備隊に連絡して、ロイドは馬車置き場に向かったという。

 ローザンの機転がなければ、ロイドの帰りが遅れ、結衣は連れ去られていたかもしれない。
 頭を下げて礼を述べる結衣に、ローザンが恐縮していると、ロイドが話に割って入った。

「悪いがローザン、大至急調べて貰いたい事がある。十日前からこっちで全遺跡の稼働間隔と、その最小公倍数だ。あと、できれば各遺跡の平均稼働時間も」
「はい。さっき見てたデータでいいんですよね?」

 ローザンがそう言って、まっすぐ見つめると、ロイドはなぜか気まずそうに目を逸らす。

「あぁ。オレは陛下のところへ行ってくる。それでまた、ユイを頼んでいいか?」

 ロイドがローザンに対して下手に出ている。お願いをしている姿が意外で、結衣は目を見張った。

「はい。今度こそ、安心して任せてください」

 ローザンが笑顔で答えると、ロイドは益々気まずそうに俯いた。

「すまない。……さっきは悪かった」

 ロイドは絞り出すようにそれだけ言って、研究室を出て行った。
 自分のいない時、二人の間に何があったのだろう。


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