クランベールに行ってきます
「ケータイ?」
「やはり、そうか」
結衣はそれを手に取り、開きながら尋ねる。
「あなたが作ったの?」
訊いた後で、すぐに違うとわかった。そこに書かれているメーカー名や文字は日本のものだ。
電源を入れてみると、待ち受け画面が表示された。バッテリは切れていない。つまり、この携帯電話はつい最近クランベールにやってきたという事になる。
結衣は驚愕の表情でロイドを見つめた。
「どうしたの? これ」
「ブラーヌから貰った。昨日ベイシュヴェルの遺跡で拾ったそうだ」
「その遺跡、日本に通じてるの?!」
「それがニッポンの物なら、そういう事になるな」
ブラーヌが言うには、遺跡の装置が活動期に入っているという。本来なら、あと二、三年先のはずだ。何が原因で早まったのか、ブラーヌにはわからないらしい。
遺跡の装置は三十年に一度、三十日間稼働が活発になる。普段の十〜二十倍の頻度で装置が稼働し、光を放つ。この動作が何を意味するのかはわかっていないが、装置が稼働する間隔は、各遺跡ごとに一定となっている。ラフルールは一時間間隔、ベイシュヴェルは五時間間隔といった具合である。
それぞれの遺跡は稼働間隔がまちまちで、時々周期的に稼働時間が一致して、一斉に光る時がある。その時は時空の歪みが最大となり、遺跡は異世界への通路を開く。
過去、遺跡の活動期には、よく物が消えたり、現れたりしたという。人が現れたりするのは稀だが、何例かあるらしい。
「あいつ、そこまでわかっていながら、オレに一言も教えてくれてないんだ」
不愉快そうに顔をしかめるロイドに、結衣はため息混じりに言う。
「あなたが、訊かないからじゃないの?」
「あいつと同じ事を言うな」
すかさずロイドが額を叩いた。
「とにかく、おまえが攫われそうになったという事は、誘拐の線は、ほぼ消えたと見て間違いない。まぁ、身代金の要求も犯行声明もないから、元々、可能性は薄かったが。逆に遺跡の活動期が早まったせいで、最悪のケースが浮上してきた」
「王子様が異世界に飛ばされたかもしれないって事?」
「あぁ。今回の事も含めて、陛下にご報告申し上げる。おまえはまた研究室でおとなしくしてろ。今度はローザンのいう事聞けよ」
「うん」
ふたりは王宮内に入り、そろって研究室に向かった。