クランベールに行ってきます
反応がないのを不審に思ったのか、ロイドが振り向いて言葉を補足した。
「殿下の代わりに決断されては困るという事だ」
結衣はムッとしてロイドを睨む。
どうせそんなところだろう。
この男にとって自分は王子の身代わりでしかない。
王子が見つかるまではいてもらわないと困るから身を案じただけなのだ。
そう思うと少しでも、いい奴かもと見直した事が腹立たしくなってきた。
だが、王子の身代わりである以上、王子の意に反する事をするわけにはいかない。
この点に関してはロイドの言う通りだ。
元々ロイドはいい奴なんかじゃない。
そう思っていれば、何を言われようが、何をされようが腹も立たないはずだ。
そう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替えると結衣はロイドに問いかけた。
「あなたは? 甘い言葉に乗らないの? 国家に貢献する研究開発って魅力じゃないの?」
ロイドは興味なさそうに軽くため息をつくと、前を向いて歩き始めた。
「どうせ武器か兵器の開発だろう。そんなものおもしろくもない」
どうやらロイドの研究開発の原動力は「おもしろいかどうか」らしい。
結衣は小走りに後を追うと、ロイドの横に並んでさらに尋ねた。
「じゃあ、おもしろい兵器を作れば?」
「おもしろい兵器って、どんな兵器だ? どっちにしろオレはごめんだ。我が子を戦場に送りたがる親がどこにいる」
吐き捨てるように言って顔を背けたロイドを見つめて、結衣は小さく笑った。
ロイドにとっては自作マシンが”我が子”なのだ。
いい奴なんかじゃないけど、悪い奴でもなさそうだ。
「呑気に笑ってるが大丈夫なのか? おまえ、いくら言っても言葉気をつけないし。陛下にちゃんとご挨拶申し上げろよ。その声をお聞きいただきたいから、風邪ひいてることにはできないぞ」
ロイドの言葉に結衣はいきなり不安になった。
自国の天皇陛下ですら、言葉を交わす事はおろか、姿さえテレビで見た事しかない。
外国の国王にどんな言葉で挨拶すればいいのか見当も付かない。