クランベールに行ってきます


 腕の中に結衣を捕まえて、メガネを外しながら意地悪な笑みを浮かべる。

「おまえもだ。余計な事ばかり言ってる口は塞いでやる。今日のノルマはまだ果たしてないしな」

 結衣は慌てて、近付いてくるロイドのあごを手で押さえて、顔を背けた。

「ダメ! そんなノルマは後回しよ。地下の探検の方が先決でしょ?」

 途端にロイドは動きを止め、結衣を放すとメガネをかけ直した。

「それもそうだな。地下の方が邪魔が入らなくていい」
「だから、そうじゃなくて……」

 ガックリと肩を落とす結衣の背中を叩くと、ロイドは先に立って歩き始めた。

「ほら、行くぞ」

 結衣は気を取り直して、その後を追う。
 東屋の裏手に回り、ロープを跨いで石段を上がると、表側に空いた穴の側までやって来た。
 以前は余裕がなくて何も見ていなかったが、中を覗くと確かにそんなに深い穴ではない。底には石段を構成していた白い石のブロックがいくつも転がっていた。

 穴の入口は人ひとりが、スッポリ嵌るくらいの大きさで、結衣なら余裕だが、ロイドには少し狭いようだ。ロイドもそれに気付いたらしく、穴の周りの石段を踵で踏み抜き、入口を広げた。
 案外あっけなく石段が崩れたのを見て、返す返すもあの時、ロイドが裏側から上がってきたのは英断だったと感心する。

 ロイドは早速、穴の中に下りた。穴の深さは、丁度ロイドの頭が隠れるくらいだとわかった。結衣も穴の縁に座り、ロイドに手を貸して貰って、穴の中に下りた。
 穴の中には、王宮の方に向かって横穴が穿たれている。
 ロイドは白衣のポケットからペンライトを取り出し、横穴の奥を照らした。少し先で横穴は、垂直な壁に突き当たっていた。

 まさか仮説が見当違いだったのかと、結衣がガッカリしていると、ロイドがライトを少し動かして、突き当たりの壁の下に、穴が続いている事を発見した。

「先がありそうだな。行ってみるか」
「うん」
「足元気をつけろよ」

 ロイドは結衣の手を握り、先に向かってゆっくり進み始めた。


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