クランベールに行ってきます
ロイドは小さく舌打ちすると、果実酒を一気に飲み干した。怒ったように無言のまま、音を立ててグラスをテーブルに置き、素早くメガネを外してその横に置いた。
そして、結衣の横に片ひざを付くと、両手で頬を包み、強引に顔を上向かせて口づけた。
こじ開けられた唇の隙間から、液体が注ぎ込まれる。それが先ほどの果実酒だと分かり、結衣はロイドの腕を外そうと抵抗した。
ところが、引っ張っても叩いても、ロイドの腕はビクともしない。吐き出そうにも口を塞がれていて、それも叶わない。
口中を満たした果実酒は、真っ直ぐに伸びた喉の奥へ、次々に流れ込んでいった。
やがて、結衣が果実酒を飲み干すと、ロイドは唇を解放した。ひと息に飲まされた強い酒のせいで、結衣の頭はクラクラし始めた。
ぼんやりとロイドを見つめる半開きの口の端から、果実酒が一滴溢れ、あごを伝って喉に一筋の赤い線を描いた。
「ったく、手間を取らせるな」
面倒くさそうに言うロイドに、結衣は力なく反論する。
「ひどい……無理矢理飲ませるなんて……」
「おまえが素直に自分で飲まないからだ」
そしてロイドは、思い出したようにクスリと笑った。
「あぁ、そういえば、口移しの方がいいって言ってたっけな」
「言ってないわよ」
反論しながらロイドを叩こうとすると、座ったソファがグンと沈んだような気がした。ソファから転げ落ちそうな気がして、結衣は慌てて背もたれに背を預けた。
じっとしているはずなのに、身体がグラグラ揺れているような気がする。
「もぉ〜バカぁ〜目が回るぅ〜」
恨み言を言う結衣を、ロイドはおもしろそうに身を屈めて覗き込む。そして、先ほど口から溢れた酒の跡に気付いたらしい。
「なんだ、こぼしたのか。しょうがないな」
ロイドはソファの背もたれに両手をついて、その間に結衣を閉じ込めた。焦点の合わないうつろな目で結衣が見上げると、ロイドは顔を近づけ、首筋に残る赤い跡を、唇と舌先でスッと拭った。