クランベールに行ってきます
ロイドは身体を起こして座ると、大きく伸びをした。
「やれやれ。おまえの勘違いのせいで、完全に目が覚めた。少し早いが起きるか」
誰のせいで勘違いしたと思っている、とは言っても無駄な気がするので、やめておいた。
軽くため息をついて自分も起きようと、結衣が身体を起こしかけた時、突然ロイドが、
「あ、そうだ」
と言って振り返った。
キョトンとして動きを止めた結衣に、
「昨日のノルマが、まだだった」
と言いながら、覆い被さるようにして、のしかかってくる。
結衣は慌てて、ロイドの両肩に手をついて押し止めた。
「ちょっとーっ! 何なのよ、唐突に! キスなら、無理矢理酒を飲ませた時にしたでしょ?」
「あれはキスじゃない。口移しだ」
「そんなの、屁理屈ーっ!」
結衣が尚も抵抗を続けていると、ロイドが不思議そうに尋ねた。
「なんで嫌がるんだ」
「この状況が、なんか落ち着かないのよ。ベッドの上に寝てるし、あなた裸だし」
「気にするな。些細な事だ」
「気にするーっ!」
結衣の抵抗を無視して、ロイドは両手首を掴みベッドに押しつけると、強引に口づけた。
やがて結衣が抵抗を諦めて身体の力を抜くと、ロイドは手首を掴んだ手を離した。手首を離れたロイドの両手は、そのままゆっくりと結衣の腕の上をたどり、肩に到達して止まった。
腕の上をすべるロイドの手の平の感触に、背筋がざわついて結衣は身を硬くする。
徐々に激しくなっていく口づけと共に、ロイドの手が再び動き始め、結衣はピクリと身体を震わせた。
その途端、ロイドがガバッと身体を起こした。結衣が驚いて目を開くと、思い詰めたような表情でロイドが見下ろしている。
「何?」
何事が起きたのか分からず問いかけると、ロイドは大きく息をついた。
「やばかった。そのまま、突っ走りそうになった」
「……え……」
朝っぱらから強引にキスをした挙げ句、なし崩し的に突っ走ってもらっては、ゆうべの宣言は何だったのかと言いたくなる。やはりベッドの上でのキスは危険だった。
ロイドは結衣から離れ、ベッドの縁に座った。結衣も今度こそ身体を起こす。
「おまえ、どうする? 研究室にいる必要もないが、来るか?」
「うん」
王子が戻ったからには、今まで以上に勝手に王宮内をうろつけない。かといって、ここにいてもヒマだ。
「そうか。じゃあ、もう少ししたら、今日明日のおまえの扱いについて、ラクロットさんと相談してみよう」
ロイドはベッドから下りると、頭をかきながら寝室を出て行った。