クランベールに行ってきます


 靴を脱いで、結衣の広げた新聞紙の上に置くと、ロイドは部屋の中を見回してぼやいた。

「なんで、この狭い部屋に何もかも詰め込んでるんだ。少し他の部屋に移せばいいのに」
「私の部屋は、ここしかないのよ。王宮と一緒にしないでちょうだい」

 結衣が腕を組んで苛々したように言うと、ロイドはそれを無視して、いきなり結衣を抱きしめた。

「会いたかった」

 相変わらず、唐突で脈絡がない。結衣は諦めたように、軽くため息をついた。
 突然ロイドが身体を離し、結衣の両肩を掴んで、睨みつけた。

「おい。どこのどいつだ」
「は?」

 何を怒っているのか分からず問い返す。するとロイドは声を荒げた。

「おまえの首筋に、こんな跡をつけた奴だ」
「えぇ?!」

 結衣は慌ててロイドを振りほどき、洋服ダンスの横にある姿見を覗き込んだ。
 確かに左の首筋に、赤紫の跡がある。それで王子もローザンも、エロい想像をしたのだと悟った。

「あーっ! もう、こんな目立つところに!」
「だから、誰なんだ!」

 結衣の後ろに立ったロイドが、鏡の中の結衣を睨む。結衣も鏡の中のロイドを見て尋ねた。

「知ってどうするの?」
「決まってるだろう。一発殴ってやらないと気が済まない。そして、そいつの前で、おまえはオレのものだと見せつけてやる」
「そう。じゃあ、教えてあげる。そこにいるわよ」

 結衣は鏡の中のロイドを指差した。しかしロイドは、動じることなく言い返す。

「ふざけるな。オレのわけないだろう。あれから三ヶ月経ってるんだ」

 結衣は振り返って叫んだ。

「私はさっき帰ってきたのよ! でなきゃ、三ヶ月も王子様の服を着てるわけないでしょ?」


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