クランベールに行ってきます
ラクロット氏は笑顔であっさりと教えてくれた。
「昔、陛下がまだ皇太子殿下だった頃、お知り合いになったそうです」
当時、若き国王は身分を隠して、お忍びで遺跡の見学に行っていた。そこで考古学者と共に遺跡の調査に来ていたロイドと出会ったらしい。
「お二人の間にどんなやり取りがあったのかまでは私は存じませんが、ヒューパック様が陛下に信頼されている理由はわかります」
黙って見つめる結衣をまっすぐ見据えて、ラクロット氏はきっぱりと言った。
「ヒューパック様は、金や名誉をちらつかせても決して動きませんから」
それはなんとなくわかる。そんなものに釣られる奴なら、ラフィット殿下の甘い言葉にあっさり乗っているはずだ。
どこの世界でも、人はそんなものに揺らぎやすいのだろう。庶民は金に、エライ人たちは地位や名誉に。どちらにも揺れないというのは確かに信頼に値する。
「まぁ、あの方の場合、一度こうと決めたら、てこでも動きませんからねぇ。別の言い方をすれば、頑固ってことですかね」
そう言ってラクロット氏は首をすくめてクスリと笑った。結衣もつられて笑う。
「じゃあ、王子様がロイドを気に入ってるのは何故?」
結衣の質問にラクロット氏は更に破顔する。
「あぁ、それはもっと単純な理由です」
国王に気に入られたロイドは、度々王宮にやって来るようになった。
ある時、手土産として幼い王子に機械仕掛けのおもちゃを献上したという。これをいたくお気に召した王子は、その後ロイドが王宮にやって来るたび、まとわりつくようになった。
だが、元々ロイドは王子と遊ぶためにやって来ているわけではない。王の依頼による仕事の打ち合わせ等で、必然的に王と話す時間の方が長くなる。
幼い王子にしてみれば、王がロイドを独り占めしているように見えたのだろう。いつもは聞き分けのいい王子が、ある日思いあまって、ロイドを自分にくれと王に願い出た。
ひとり息子を溺愛する王は、我が子の初めてのおねだりに喜んで、ロイドに研究施設ごと王宮内に移転してくれるよう頼んだ。
ロイドは居場所が変わるだけで何の問題もないため、これを快諾し現在に至っている。