クランベールに行ってきます


 呆れたようにそう言うと、ロイドは再び歩こうとして、すぐに立ち止まった。

「あ、そうか。そういう事か」

 頭の上でつぶやく声にギクリとして、結衣は思わずロイドを見上げた。
 また学者の脳が、勝手に思考の飛躍をしているに違いない。ここは是非とも確かめておく必要がある。

「何?」

 結衣が尋ねると、ロイドはニヤリと笑った。

「せっかく人気のない場所に呼び出したのに、さっさと帰ろうとするから怒ってるんだろう? おまえがケガをしてなければ、もう少し付き合ってやるんだが、今日の所は諦めろ」

 結衣は愕然とする。やはり、確認してよかった。とんでもない勘違いだ。今度はキッパリ否定しなければ!

「違うわよ! もう、降ろして!」

 結衣が手足をばたつかせて、降りようとすると

「暴れるな。落とすぞ」

 そう言ってロイドは腕の力を一瞬緩めた。

「イヤッ……!」

 身体が滑り落ちそうになり、結衣は思わずロイドにしがみつく。

「ったく。ケガを増やしたくなければ、おとなしく掴まってろ」

 吐き捨てるようにそう言って、しっかりと結衣を抱え直すと、ロイドは再び歩き始めた。結衣はまた黙って俯いた。
 緑のトンネルに入り少し歩いた時、ロイドが頭の上でポツリとつぶやいた。

「そんなにイヤなのか」

 何の事だろう? 結衣がゆっくりと顔を上げると、ロイドが見下ろしていた。目があった途端、ロイドはふてくされたような表情で顔を背けた。

「いや、いい」

 ひと息嘆息すると、ロイドはそれきり口を閉ざし、黙々と歩き続けた。
 ロイドにしては歯切れが悪い。きっと呆れているのだろう。訳もなく怒っている結衣に。
 結衣が苛立っている理由などロイドにはわかるはずがない。元々身勝手な理由だ。自分だけドキドキしているのが悔しくても、それについてロイドに責任はない。
 わざわざ走って助けに来てくれたのに、礼も言ってなかった事に気がついた。

「ロイド、助けに来てくれて、ありがとう」
「あぁ」

 短く返事をしただけで、ロイドはまた、黙々と歩き続けた。

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