クランベールに行ってきます
慌ててロイドから離れようとすると、足に痛みが走った。
「いたっ……!」
結衣が思わず声を上げると、ロイドが上から覗き込んだ。紺色のパンツのひざから下が黒く変色している。
「なんか派手に血が出ているみたいだな。医者に診せた方がいい」
そう言ってロイドは軽々と結衣を抱き上げ、立ち上がった。そのまま平然と歩き始めたロイドに結衣は思わず抵抗する。
「降ろして。自分で歩くから」
「歩かない方がいい。骨に異常があるかもしれない」
ロイドはそう言って歩き続ける。なおも結衣は食い下がる。
「医者に診せたら、私が女だってばれるんじゃないの?」
「大丈夫だ。いう事を聞く医者がひとりいる」
「……え……」
やはり自分以外にもロイドの本性を知る者がいるようだ。なんだかガッカリしている自分に少し苛立って、結衣はそのまま黙って俯いた。
いわゆる、これって”お姫様だっこ”だ。それが照れくさくて抵抗したが、ロイドにしてみれば荷物を運んでいるのと同じなのだろう。自分だけドキドキしているのが、ちょっと悔しかった。
考えないようにしようと思っていたのに、ジレットに指摘されて、余計に意識してしまい、ロイドの顔を見ただけでドキリとしてしまう。
東屋を離れ、緑のトンネルに差し掛かった時、黙り込んだ結衣を不審に思ったのか、ロイドが立ち止まって顔を覗き込んだ。
「おまえ、顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
そんな事は言われなくても自分でわかっている。だから黙って俯いていたのに、いちいち指摘しないで欲しい。
ロイドの無神経さに、無性に腹が立ち結衣はついつい声を荒げた。
「なんでもないわよ。放っといて!」
「何を怒っているんだ」