クランベールに行ってきます


「いいだろう。どんなゲームだ?」
「オセロゲーム。知ってる?」

 裏表、白と黒に塗り分けられた石を使い、自分の石で相手の石を挟み、自分の色に塗り替えていく。最終的に自分の色が多い方が勝ちとなる、あの単純なゲームだ。
 もちろんロイドは知らないと言った。

 頭脳戦となるゲームで、学者のロイドより優位に立とうと思えば、ロイドの知らないゲームを選ばなければならない。
 オセロゲームは勝つためのコツがある。
 結衣はそのコツを少しばかり知っていたので、オセロゲームは得意なのだ。

 だが、単純なゲームだからこそ、ロイドには簡単にそのコツを見破られてしまうかもしれない。
 ロイドがコツに気付く前に、勝負は短期決戦一発勝負でなければ勝算はない。

 結衣はルールの説明を後回しにして、ロイドから厚紙をもらい、ゲームの材料を先に作る事にした。
 その間ロイドは通常業務に戻ったが、時々不思議そうに結衣を見つめた。
 結衣が何かを企んでいる事には気付いているのだろう。

 やがて準備が整うと、ゲーム盤の乗った机を挟んで座り、結衣とロイドは対峙した。結衣は机に頬杖をつくと、ロイドを見つめて微笑んだ。

「せっかくだから、賭けない?」

 納得したように頷いて腕を組むと、ロイドは椅子の背にもたれた。

「そういう事か。何が望みだ?」
「私が勝ったら、あなたの嫌いなものをお腹いっぱい食べてもらうわ。あなたは?」
「そうだな。オレのいう事を一日素直に聞いてもらう」

 ロイドがそう言うと、結衣は眉を寄せて睨みながら、却下した。

「そんな大雑把なのダメ! はっきりと何かひとつに決めて」

 ロイドは面倒くさそうに嘆息すると、

「おまえの嫌がる事だろ?」

と言いながら、少し考えてニヤリと笑った。

「キス、三十秒でどうだ?」
「さ、三十秒?!」

 結衣が思わず大声を上げると、同時にロイドの後ろでローザンが吹き出した。


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