クランベールに行ってきます
そのまま一口分すくって、嫌そうに口に運ぶと、味を確かめるように斜め上を見上げながら、ゆっくりと口を動かした。
そしてロイドは、その後も一口ごとにケーキの中を確かめるように探りながら、次々に口へ運び、あっという間にワンホール食べきってしまった。
結衣は呆気にとられて絶句する。
「なんだ、普通の焼き菓子じゃないか。普通というより、うまかった。意外な才能があるもんだな」
フォークを置いて茶をすするロイドを見ながら、ローザンが驚いて問いかけた。
「えぇ?! 普通のお菓子だったんですか? ぼくはてっきり妙な香辛料が入ってたり、相性の悪そうな食材が練り込まれたりしてるのかと思ってました」
そう言った後、ローザンはガッカリしたように項垂れてつぶやいた。
「あーあ、普通のお菓子なら一口もらえばよかった。丁度甘いものが欲しかったのに」
「じゃあ、私の分あげる」
結衣が自分の分のケーキが乗った小皿を差し出すと、ローザンが受け取る前にロイドが素早く横取りした。
「ちょっと! ロイドさん!」
ローザンが手を伸ばすと、ロイドは皿を退いて屁理屈を捏ねる。
「だまれ。頭を使ってないおまえより、頭をフル稼働させているオレの方が糖分を必要としている」
「さっき丸々一個食べたじゃないですか」
子供のようにケーキを奪い合っている二人に苛ついて、結衣が怒鳴った。
「それはローザンにあげたの! 第一あなた、甘いもの苦手じゃなかったの?!」
その声に二人はピタリと動きを止め、同時に結衣を見つめた。ロイドは渋々ローザンに皿を差し出しながら、結衣に尋ねた。
「誰から聞いたんだ? そんな嘘っぱち」
ローザンが皿を受け取り、結衣の方を向いた隙に、ロイドは素早くケーキを半分むしり取って口に放り込んだ。
「あっ! もう……」