クランベールに行ってきます


 ロイドの小馬鹿にしたような態度にムッとしたものの、その涼しげな表情が苦痛に歪むのを想像すると、結衣は思わず口元が緩んだ。
 甘いものが苦手な人には、金平糖一粒でさえ拷問だと聞く。結衣がこれから作ろうとしているのは、究極の激甘ケーキなのだ。

 元々暇つぶしに作ろうと思っていたので、すでに厨房には話を通して、材料を用意してもらっている。
 外国の文献においしそうなお菓子があったので作ってみたい、という理由も、好奇心旺盛で甘党の王子なら通用した。
 結衣はもう一度クスリと笑うと、声をかけて厨房に足を踏み入れた。

 午後三時の少し前、結衣の作った二つのケーキが完成した。
 ひとつはロイドの拷問用で、砂糖が多めになっている。もうひとつは場所と材料を提供してくれた、厨房の人たちへのお礼だ。
 そのケーキを自分用に一欠片分けてもらい、大小二つの皿を持って、結衣はロイドの研究室に向かった。

 究極の激甘ケーキはチョコレート尽くしだ。
 製菓用の甘い酒を使ったシロップを、たっぷりと含ませたココア風味のスポンジと、生クリームを混ぜてホイップしたチョコレートクリームを交互に重ね合わせ、周りもチョコレートクリームでブロックしてある。
 そして、仕上げは滑らかで艶のあるグラッサージュショコラで周りをコーティング。甘いだけでなく結構重量感もある。

 冷えてもカチカチにならないチョコレートコーティング、グラッサージュショコラが気に入られ、結衣のケーキは厨房で好評を博した。
 研究室に入り、先ほどゲームをした机の上にチョコレートケーキを置くと、結衣はにっこり笑ってロイドにフォークを差し出した。

「さぁ、召し上がれ」

 机に向かって座ったロイドは、フォークを受け取り尋ねた。

「これを、食えばいいのか?」
「そうよ。さっきも言った通り、残さず食べてもらうわよ」

 結衣が腰に手を当て、冷ややかに言い放つと、ロイドは顔をしかめてチョコレートケーキを見つめ、フォークを突き立てた。


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