クランベールに行ってきます


「科学者ってのは、理論が確立されていれば、それを実証してみなければ気が済まない。おまけに熱中すると、周りや後先の事が見えなくなる。そんなバカが多いんだ。オレもその感覚はよくわかる。同じバカの仲間だからな」

 そう言って、ロイドは自嘲気味に笑った。

「それで、結局王様のクローンは成功したの?」
「あぁ。わずか半年で、当時の陛下とまるっきり同じ少年が誕生したらしい」

 生まれたクローン少年は、外見だけ王子とそっくりだったが、脳の中身は生まれたての赤ん坊と同じだ。そのままでは身代わりの役目は果たせない。
 それについては、あらかじめ分かっていた事なので、培養液の中で成長中に、脳に直接記憶や知識を植え付けて、培養液から出た時には、人間の少年として生活するには支障のない状態になっていた。

 クローン少年は培養液から出た後、王子としての教育を受けながら、本物の王子や弟のラフィット殿下と共に分け隔てなく育てられた。
 王子たちには、少年がクローンである事は知らされていない。クローン少年自身も、与えられた偽りの記憶により、王子たちの生き別れになっていた兄弟だと信じ込んでいた。この頃が、クローン少年にとって一番幸せだった時期かもしれない。

 クローン少年は発育の経過を確認するため、定期的に検査を受けていた。
 そしてある時、科学者の一人が、クローン少年に出生の秘密をうっかり漏らしてしまったのだ。
 生まれて間もない少年の心は、過酷な現実に納得して、受け止められるほどには強くなかった。
 クローン少年は思い悩み、次第に心を病んでいった。そして、遂には人に会うのを嫌がり、部屋に引きこもったまま出て来なくなった。

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