クランベールに行ってきます

3.軽率な会談



 そのまま午前中は、何事もなく退屈に過ぎ去った。そして昼食後、結衣が再び窓辺の椅子で絵本を広げた時、またしても研究室の扉がノックされた。今日はよく来客のある日だ。
 扉を開けて現れたのは、ラクロット氏だった。

「失礼します。レフォール殿下、ジレット様がお見えです」
「わかった、すぐ行く」

 結衣が絵本を置いて立ち上がると、そばの床に座り込んで、基盤をいじっていたロイドが、顔を上げてつぶやいた。

「最近よくお見えになるな」
「うん。退屈だから、どんどん遊びに来てって頼んだの。ジレットって、かわいいし、やっぱ女同士でおしゃべりするのって楽しいのよね」

 結衣が楽しそうにそう言うと、ロイドは真顔で結衣を見つめた。

「おまえが頼んだのか?」
「うん。いけなかった?」
「……あまり不必要に親しくしすぎない方がいい。おまえは殿下なんだ」

 ロイドが何を言いたいのかわからず、結衣は憤る。

「わかってるけど、婚約者と親しくして何が悪いの?」
「婚約者だからだ」
「意味わかんない! 説明して!」

 結衣が苛々して叫ぶと、ロイドは俯いて大きくため息をついた。

「後で話す。とりあえず行ってこい」

 結衣は眉を寄せてロイドを見つめた後、入口に向かった。入口ではラクロット氏が二人の様子を心配そうに見つめている。結衣は小走りにラクロット氏の元へ駆け寄った。

「待たせてごめん」

 そう言って、ラクロット氏と共に、ジレットの待つ貴賓室へ向かった。

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