クランベールに行ってきます
小一時間ほど、お茶を飲みながらおしゃべりをすると、ジレットは席を立った。
貴賓室を出て、ジレットを見送ると、ラクロット氏は足早に国王の執務室へ向かった。そして、廊下にはロイドが立っていた。
「わざわざ迎えに来たの?」
結衣は歩み寄ると、ロイドに尋ねた。
「ラクロットさんから連絡があった。陛下に急用を仰せつかったらしい。この辺は物騒だからな」
真顔で言うロイドに、結衣は苦笑する。
「おおげさね。王宮の中よ」
「おまえこそ、少しは緊張しろ。穴に落とされたのを忘れたのか。王宮の中でも安心するな」
結衣はムッとしてロイドを睨むと、話題を変えた。
「会うのは週に一回くらいにしようって、ジレットに言っといたわ」
「そうか」
ロイドの表情が少し緩んだのを見て、ふとイタズラ心が芽生えた。何もかもロイドのいいなりになるのはシャクなので、ちょっとからかってやろうと思ったのだ。
結衣はイタズラっぽい笑みを浮かべ、ロイドを上目遣いに見上げて言う。
「あなたが、ヤキモチ焼くからって」
「なっ……! 何て事を言うんだ、おまえは!」
ロイドは思い切り目を見開くと、結衣の額を強く叩いた。
「誰が女相手にヤキモチなんか焼くか! オレが心配してるのは、そんな浮ついた理由じゃない!」
まさか、これほど動揺するとは思わなかった。結衣は額を押さえてすぐに訂正した。
「ウソよ。文字の勉強が忙しいからって、本当はそう言ったの。あなたがこんなにうろたえるなんて珍しいわね」
ロイドは気まずそうに結衣を睨むと、背を向けて歩き始めた。
「行くぞ。歩きながら話す」
結衣は慌ててその後を追った。