クランベールに行ってきます


 青年は慌ててローザンを引き止めた。

「困ります。私はレフォール殿下ご本人に用件を告げるように言われてるんです。本来なら、あなたに知られてしまった事自体、まずいんです。これ以上他の方に知られるのはご容赦願います。今ならお一人のはずだからと言われて来たのに……」

 青年は困惑した表情でローザンを見つめた。
 どうやら、ロイドが出かけたのを見計らってやって来たようだ。よほど、人に知られたくない話なんだろうか。

「そう言われましても……」

 ローザンも困って、頭をかいた。

「侯爵は今どちらに?」

 結衣が尋ねると、青年は途端に表情を明るくした。

「陛下と謁見の後、今は貴賓室でご休憩中です」
「貴賓室なら平気だよね。この人も困ってるみたいだし」

 結衣の意見に、それでもローザンは渋い顔をする。

「しかし……」
「王宮の中だし、大丈夫だよ。ね?」

 そう言って結衣はポケットの通信機を指し示した。ローザンは結衣のポケットにチラリと視線を送ると、渋々了承した。

「わかりました。殿下をよろしくお願いします」

と言うと、青年に頭を下げた。

「かしこまりました」
と答え、青年もローザンに頭を下げると、三人はそろって廊下へ出た。

 結衣が肩の小鳥を預けると、ローザンは心配そうな顔をして、二人を見送った。
 しばらく青年の後について廊下を進んでいると、青年が後ろを振り返った。結衣もつられて視線を追う。廊下にはもう、ローザンの姿はなかった。

 青年は再び正面を向くと、貴賓室に向かって廊下を進む。そして途中から、広い廊下をはずれて、狭い通路に入っていった。その先は、王宮の裏手にある馬車置き場に続いている。

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