月と夕焼け
「怒ってる?」

「別に?兄さんのいい加減は今さらだから」

「ごめんな。お気に入りの花、見つけちゃってさ」

「花?」

「ふっ、何でもない」


兄さんの笑顔。
幸せそうというか、楽しそうというか。

俺は呆れて、ため息をついてしまった。


「葉子さん、なんで急に帰って来るの?」

「どっからか三者面談の話し聞いたみたいだよ。良い母親だとは思われたいんでしょ」

「優は将来、どうするか決まってるのか?」

「この家は絶対に継がない。それは決まってる」


兄さんが俺を「優」と呼ぶのが好きだ。
異母兄弟だけど、兄さんが俺にとっては唯一の家族だと思っている。


「そうか…。まぁ、お前には逃げる権利があるからな」

「兄さんだって嫌ならそう言えば良い」

「俺が嫌だなんて一言いってみろ。何千人が路頭に迷うと思ってんだよ」

「なんだ…ちゃんと考えてんじゃん?」

「まぁ、一応な」


意外と真面目な答え。
俺はびっくりしながらも、冷静に返事をした。

兄さんも、自分が籠の中の鳥だとしっかり理解しているんだ。
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