雨あがりの空に
第三章

最後の言葉

翠は、辛い闘病生活に、日々のように耐えていた。


でも…決して俺の前では弱音を吐くことはなかった。いつだって笑っていて、俺に元気な姿を見せてくれる。

でも…俺は知ってる。翠が、俺に気を使って明るく振舞っていることを…。

翠のそんな姿を見ていると、心が張り裂けそうになる。


余命から、あっという間に三ヶ月が過ぎた。

ここまでの日々は、長いようで短かった。


翠には、もう自力で起き上がる力さえ残っていなくて、酸素マスクが欠かせない毎日だ。

今日も酸素の量が増えた。5リットルだ。



「…翠?どっか辛いとこないか?大丈夫か?」

「……だい、じょぶ…」

途切れ途切れに話しながらも、笑顔で話す翠。

その姿に、また心が痛んだ。


「今日は、夜空が綺麗だな。きっと明日は晴れだな!」

なっ?…と翠に微笑みかけた。


翠は、小さく微笑んで頷いた。


「…じゃあ、家で拓海が待ってるから、そろそろ行くな?」

どこか名残惜しい気持ちを押さえて、俺は翠に言った。


すると、翠は…俺の服の袖を、もうほとんど残ってない力で掴んだ。


「…また…明日も…来て、くれる?」


弱々しい声で、そう言った。


「…来るよ。明日は、仕事が休みだから朝一で来るから!」

「…う、ん…待ってる…」


ゆっくりと離れる手が、スローモーションに見えた。



まるで…翠がどこか遠くに行ってしまいそうな気がした。


そんな…気がしたんだ。
< 78 / 112 >

この作品をシェア

pagetop