光の旅人
ある少年
その少年は、唄を歌っていました。


ギターはぼろぼろで、拙い演奏でしたが
その歌声は、優しく、よく通り

少し憂いを帯びていました。



ベンチに座っていたはずの私は、いつの間にか彼の目の前でその歌を聞いていました。
私以外に、彼の前で立ち止まる人はいません。

彼は私を見て少し笑いました。嬉しそうに。



悲しい唄を
その少年は嬉しそうに歌います

悲しくて、私は胸が痛いのに
彼は、嬉しそうに歌うのです



曲が終わって拍手を送ると、彼は照れくさそうにお辞儀をしました。
私は話しかけました。

「素敵な唄ね。あなたはこの街の人?」
「ん?あぁそうだよ。生まれも育ちもこの街さ。恥ずかしい話、一度もここを出たことが無いんだ。…君は?」


「私はユリ。

光の旅人よ。

私には、故郷が無いの。いつも旅をしてるから。

あなたとまったく逆ね。あなたの名前は?」


「あぁ、僕はクルド、クルド ラモーンだ。この間施設を出たばかり。こうして歌って、日銭を稼いでる。

光の旅人か…初めて見るよ。案外普通の人なんだね。」

「あら、宇宙人か何かかと思ったの?そう、私たちは[普通の]人間よ。

…施設って?」

「あぁ…孤児院だよ。僕には両親がいなくてね。二人とも僕が小さいころに亡くなったんだ。

何だよその顔は…よしてくれよ。別に不幸だと思ってない。案外、気楽でいいもんだよ。


ねぇ、それよりも旅の話を聞かせてよ!」


私が話し始めると、彼は目を輝かせて、熱心に話を聞きました。私たちの話、オーロラの話、他の街での暮らし、出会った人々…私が話せる、おおよそすべてのことを話しました。私が話疲れたら、今度は彼が話始めました。孤児院のこと、音楽のこと、そしてこの街の出来事…彼は話がとてもうまく、私はお腹がよじれるくらい笑いました。


こうして私たちはとても良い友達になりました。いつの間にか夜が更けていって、人通りも少なくなっていきました。
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