雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
 月夜は壁にある画に目を凝らした。
 千もの刻を、おそらく何者にも侵害されず、ほぼ造られた頃のまま現存する建国の物語――。

 現在から1012季も前のこと。
 大陸は4つに分断された。
 そのひとつひとつに王が起ってから、それぞれの国勢は拮抗し、安定しているかのようにも見えた。
 だが実際、四国間の戦いは10季以上におよび、国も民もすべてが疲弊しきっていた。
 四国一小さな国であったガルナも、神の加護があったとはいえ限界に近づきつつあった。
 初代帝朱雀は、三国の王に和平を申し出ることを決意。
 しかし結果は四国の相討ちという悲劇に終わる。
 自分を守るはずの礎を失った神は、世界から完全に姿を消した。
 戦う意義を無くした国々は、安寧を取り戻すとともに神の記憶を風化させていくのだった。

「神が天界には還らず、いまも自らの力でガルナを加護し続けていることを知っているのは、朱雀の子孫であり帝となる人間だけじゃ」

「じゃあボクは…」

 しっかりと手をつなぎ部屋を奥へと進みながら、十六夜は月夜をちらりと振り返った。

「そなたは余の側使じゃからな、よいのじゃ」

 はたしてそれでいいのかは甚だ疑問だが。

「白童も、知っておったぞ。これで納得したか?」

「白童様が…」

 それであの鍵を持っていたことにも合点がいく。
 前帝が何らかの理由で白童にあずけていたものが、自分にまわってきたということなのか。
 白童は、自分の身に何かが起こるだろうことを、予測していた……?

「十六夜……実は――」

 云いかけた月夜に、十六夜は人差し指をたてた。
 部屋の突き当たりにたどり着いたが、まわりには特に変わった様子もない。
 月夜は耳をそばだて、わずかな異変も感じとろうと神経を研ぎ澄ました。


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