雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「……余を信じてはもらえぬのか? 余を……ガルナを助けて欲しい」

 二人がした約束を、十六夜はここぞとばかりに口にした。
 月夜がそれを、断ることなどできないと、わかっていて。
 しかしどちらにしても、今の月夜にはどうすることもできなかった。

「ごめん……十六夜。ボクだってガルナを守りたい。でも……鍵はなくしてしまったんだ。……神山で」

「なくした……じゃと?」

 うつむく月夜に十六夜がつかみ寄る。

「そなたまさか……嘘を申しておるのではなかろうな? あれを無くしたなどと……」

 肩を揺さぶられ、柳眉を寄せた月夜は首を横にした。
 これが嘘であったなら、月夜は間違いなく帝に叛く反逆者である。
 だがそれはありえない。
 十六夜も、わかっているものだと思っていた。

「月夜は余を裏切るつもりか? そなただけは信じておったというのに……なぜじゃ! そなたは……そなたは――」

 青ざめ、取り乱した十六夜が、月夜の首を両手でわしづかんだ。

「いざ……よいっ」

 少しずつ力をこめられ、月夜は苦しさに喘いだ。
 しかし何よりも、十六夜のここまで取り乱した姿を目の当たりにしたことに衝撃を受けた。
 あんなに穏和であった十六夜に、なにが起こっているのか?
 月夜は霞む視界のなか、自分を仇のように睨み付ける十六夜の頬にそっと触れた。

「……っ……」

 声にならない声で名を呼ぶ。
 顔布の向こうにある真実を、月夜は信じたかった。

「……月夜」

 不意に圧迫から解放された月夜は、その場にしゃがみこんだ。
 激しく咳き込むと、新しい空気が肺を満たして、視界を明るくみせた。
 茫然と立ち尽くす十六夜が、急に頭を抱えてうずくまった。


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