雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「月夜……そなたが何を見たのかは知らぬが、たとえそこで何を見たのであったとしても、もう二度と勝手なことをするでない。これ以上のことは近衛に任せよ。側使の任を解く…そなたはしばらく謹慎じゃ」

「十六夜、そんな…なぜなんだ? 確かに勝手なことをして悪かったよ。心配させてごめん…でも、ボクだって十六夜が心配なんだ!」

 詰め寄った月夜に、十六夜の厳しい表情が迫る。

「であるなら余の気持ちも理解できるであろう、月夜? 今日のような思いはもうごめんじゃ…できることなら、そなたを縛りつけてでも余の目の届くところに置いておきたいくらいじゃ!」

 十六夜の気迫に月夜は少なからず衝撃をうけた。
 云っていることが子供じみてはいるが、いままで、こんな風に自分を意のままにしたがる彼を見たことがなかった。
 元服を過ぎるまで、いつも一緒だった十六夜は、優しく穏やかで従順な皇子だったのだ。

「十六夜は……変わったんだな。本当に……君主になったんだ」

 立派になった姿は誇らしくあった。
 けれど寂しい気持ちはぬぐえなかった。
 いつまでも、あの頃のままではいられないことは、わかっていても。

「……我を通すことが帝じゃと云うなら、余はもう昔のように、そなたの背中を見ることはできまい……これからは、そなたが余の背中を見よ!」

 いつのまにか、その全身から溢れていたのは、幼い皇子のそれではなく、ガルナ国の君主としての威厳と自信に満ちたものだった。
 月夜はようやく、己が側使として仕える相手が何者なのかを実感した。

「十六夜がこんなに我が儘だったなんて…知らなかったよ」

 二人は顔を見合わせ、刹那表情をゆるめた。

「そなたは昔から頑固であったからな。余は遠慮しておっただけじゃ」

 瞠目した月夜は、言葉もなく苦笑した。


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