雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
 結局本当に側使の任を解かれた月夜は、しぶしぶだが部屋に籠ることにした。
 しかし体力も限界だったお陰で、部屋に戻った途端寝台に倒れこんでしまう。

「……疲れた」

 誰もいない部屋で、ポツリとつぶやいた。

「云っただろう。傷は消えてもすべてが癒えたわけではない」

 突然耳許で声がきこえ、月夜は慌てて身を起こした。

「誰だっ、まさか…」

 だが目の前にいたのは、眠っていたはずの小さな式だった。

「阿修羅…お前?」

「なにを呆けている。頭でも打ったのか」

「じゃなくて! な、なぜ阿修羅が…しゃべってっ」

 姿は彼でも、そこから発せられるのは、間違いなくあの魔物の声だ。
 しかも、獣の顔であるにもかかわらず、なぜか微妙な表情がわかってしまう。

「何度同じことを云わせるつもりだ。俺とこれは繋がっている。いつでもお前の行動がわかるようにな」

「ばっ馬鹿な……まさかずっと……?」

 阿修羅はふんぞり返ってうなずいた。

「もちろん見ていたぞ。ところでお前、あの十六夜とかいうのは――」

「黙れ! 魔物風情が帝の名を口にするなど、万死に値する!」

 知らぬうちにすべて見られていたと知った月夜は、恥ずかしさと苛立ちに声を荒立てた。

「……まぁいい、俺には関係のないことだ。だが忘れるな……誰だろうと、俺以外の奴と交わることは許されない」

「交わる? 契約のことか。そんなのはわかっている! 心配しなくとも約束は守る。それよりお前、ずっとそうしている気ではないだろうな…」

「なにがだ」

「とぼけるな! ずっと阿修羅の姿でボクを監視していたんだろっ」

「……あぁ」

 いま気がついたとばかりに、雪はシタリ顔でうなずいた。


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