雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「俺が何者なんか…いまは重要やない。ホンマはもう、あまり悠長なこと云ってられへんのです。よう訊いたって下さい、月夜様。あの民話に書かれとる眠る神云うんは、この国の何処かにおるんです。しかもちゃんと生きてはる」

「神が生きて……この国にいる? そのようなこと、あるわけが……!」

「月夜様がわからんかったんも無理ないんです。神は同じ神にさえ手ぇ出せない場所にずっと隠れておったんや……この国の奥深く、自らを封じる鍵までかけて」

 全身が総毛立った。
 白童から渡された鍵。
 もしあれがその鍵だとするなら、もう月夜のもとにはない。
 そんなものを簡単に失ってしまった責任は、想像を遥かに凌駕した。
 月夜は愕然とする。

「いまは鍵の所在がはっきりしまへんのや……あれがないと、誰にも神のもとへ辿り着けない」

「鍵を……それを見つけてどうする? お前は神を奪いにでも来たのか。だから……帝を、白童様を殺して……」

「ちゃいます……! 帝と白童様を手にかけたんは……っ」

 イシャナはなぜか酷くいいよどんだ。
 なにか、月夜には訊かせたくない様子にもうかがえる。
 だが月夜は詰め寄ると、戦慄く手で彼の胸ぐらを掴んだ。

「お前は知っているのだろう。帝を、白童様のお命を奪ったのが誰か!」

 月夜の気迫に圧され、イシャナはとうとう固い口をひらいた。

「帝を、殺したんは……」

 名を訊く直前、部屋の扉が激しく叩かれた。

「月夜様! 月夜様、なにやら外が騒がしく……いかがいたしますか」

「もう来てしもたんか……」

 イシャナの諦めの声が響いた。

「どういう意味だ? これはお前の差し金か!」


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