雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
 その隙をついて、月夜は渾身の力でイシャナを突き放した。
 ぐったりと横たわる阿修羅に駆け寄り、巻きついた蔓を懸命に引きちぎるが、蔓は殖えていくばかりできりがない。

「なんなんだ、これは…阿修羅を離せ! このっ…」

 その蔓から闇の気配がたちのぼってくる。
 まさか、と月夜はイシャナを振り返った。

「これはお前の仕業か…お前の、式なのかっ!」

 イシャナは答えずに、傷ついた肩と脚を庇いながらこちらに迫ってくる。
 気づくと自分の身体にも蔓が巻きついてきていた。
 慌ててそれを引き離すが、その倍の早さで殖え続ける。
 月夜は懐から白紙を掴み取って、叉邏朱を呼び出そうとした。

「なにをするつもりです? こないなところでそないに大きいもん召喚したら、俺らかて無事やすまないですよ……月夜様」

 躊躇した月夜をイシャナは床に押し倒した。
 蔓は完全に月夜の自由を奪っていた。

「離せイシャナ! 阿修羅が……死んでしまうっ」

 月夜の悲痛な叫びに、イシャナは目を細めた。

「ただの式がそないに大事ですの? いまは貴方の方が一大事やというのに…」

 身体に跨がってきたイシャナの手が、月夜の乱れた髪を優しく撫でた。

「なにを……っ」

 月夜はハッとした。
 少しずつだが確実に、全身から力が抜けていく。

「これは……どういうことだ?」

 まるで蔓が、月夜から力を吸い取っているようだった。

「どないです? 俺の式もなかなか優秀ですやろ。貴方と同じ、魔の式や……調伏するんはそりゃ大変でしたけど、強くなるためにはこんくらい高い等級の精霊捕まえんと……あぁ、貴方ははじめての狩りでふたつも高等式を手に入れたんでしたな」


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