雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「この者たちが宮殿まで連れていく。月夜殿、帝を頼む!」

「天照様……貴方はどうなさるおつもりですか!」

 天照は刹那、これまで見せたことのない爽やかな表情を浮かべた。

「神の侵攻を止める!」

「そんな……無茶です。私たちのようなただの人間が、神にどう立ち向かうというのです!」

 もとの厳しい顔をした天照の手に、何枚もの白い薄紙が握られていた。

「式……?」

 確かに天照は、月読のなかでも高等級の精霊を式とする精鋭階級であったが、相手は神である。
 力の差が尋常ではないのはわかりきっていた。
 天照が月夜の肩をたたき、静かにうなずいてみせる。
 彼は…彼らは覚悟のうえなのだと気づいた。

「天照様……どうかご無事で」

 未熟な自分では、彼以上に何もできないことを痛いほど理解しながら、月夜は今出来ることに目を向けた。

――帝の宮殿へ!

 あの混乱のなか、どれだけの月読がいたのかはわからない。
 実際この状況では、式を使ったとしても神魔の争いに干渉できるとは思えなかった。
 何度も強い風と雷にあおられながら、月夜はようやく宮殿にたどり着く。
 護衛の月読は、それを見届けるとすぐに来た道を引き返した。

「十六夜……」

 近衛が囲む宮殿の奥に、守るべき主君がいる。
 月夜は十六夜をめざし、その道をすすんだ。
 宮殿の柱が外の振動で揺れる。
 このままではここも安全とは云えない。
 十六夜は謁見の間で、玉座に身体をあずけて待っていた。
 月夜の姿を目にすると、優雅に立ち上がり手を差しのべてきた。

「そなたを待っていた。月夜……余と一緒にきて欲しい」

 その真剣なまなざしに、月夜は差し出された手をとるのをしばし躊躇った。


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