卓上彼氏



速く、速く!!




車だって充分速いのに、助手席にじっと座ることしかできない私は焦っていた。






前方に信号機が見えてくる。





ここへきて私ははっと思い出した。



去年も一度、こんなことがあって姉の旦那さんが車で学校へ迎えにきてくれたことがあった。



そのとき、私は学校から病院までの信号機の多さに嘆いていたのだった。




病院近くになるとやはり患者やその関係者の通行が多くなることから、安全を配慮して、押しボタン式の信号機や歩行者が青信号になることの方が多く長い信号機など、車にとってはじれったい信号機が増えるのだ。





「赤信号にひっかかりませんように……」




手のひらを合わせて無理な願いをつぶやいた。



あまりの赤信号の多さに苛立った去年の自分と今の自分を重ねる。





「先生、ここから病院までの車道、赤信号多いんです…」





こんなこと先生に言ったところでどうにもならないのに、救いを求めるような声で言った。






「……願うしかないわね…」





先生も難しそうな顔でハンドルを握る。






前方の信号機の黄色いライトが点灯した。





あぁ、やっぱり。





となりから先生のはぁ…というため息が聞こえた。





ゆっくりと信号機に向かって車が減速し始めた、その時。






突然黄色いライトから青いライトへサインが変わった。





「えっ?!?!」





私も先生も共に自分の目を疑った。





他のドライバーもためらったのだろう、一瞬の間を置いてから、そのGOサインにしたがって皆ゆるゆると動き出した。






「危ないわねぇ、回線がおかしいのかしら」






顎のところに片手をやって先生がつぶやく。





私は何も言わなかった。



とにかく頭の中が母でいっぱいだったから。






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