砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 結局のところ、夕刻になっても風鐸は取り付けられないまま、毬の手の中にあった。
 それをいとおしそうに取り出しては、何度も音を確かめるのを見せ付けられては、龍星も取り上げる気にはなれなかった。

 そもそも、彼女のために調達してきたのだからどのように使われても文句は無い。
 むしろ、それが退屈しのぎになるというなら彼女のために珍しいものを山ほど集めてきてやっても良いとすら、思っていた。

 カランカランという耳に心地の良い音が、毬が手を振るたびに鳴る。

「素敵だわ」

 厳しい残暑すら忘れたかのように、毬がうっとり呟く。

「ねぇ、龍」

「ん?」

 持ち出してきた書物に熱心に目を通していた龍星を、遠慮もなく毬は呼ぶ。

「これ、明日の朝御所に行く前に掛けておいてね」

「どうして?
 その手に持っておいても構わないよ」

「だってこれ、魔よけにもなるんでしょう?」

 書物から顔を上げて目を移せば、思いがけず毬は深刻な表情をしていた。

「ああ、そうだが」

「避けてもらわないと困るの。
 私のことはもう、誰にも渡さないわ」

 毬は強い決意を秘めた声で、そう宣言する。
 と、一瞬の後子供のような顔で龍星に手を差し出した。

「だから、頂戴」

 小遣いをねだる子供のような仕草に龍星は目をひらく。
 毬は再び真剣な光をその瞳に宿らせて言った。

「お願い。
 私が自分で自分を守れる呪を、教えて頂戴」

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