砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
毬は龍星がいつもと違う表情であることに気がついた。
おそらく、御所ではいつもこのような表情で仕事をしているのだろうと察し、ゆっくりと視線を逸らす。
それは、毬の知っている龍星とはもはや別人と言っても過言ではなかった。
怜悧で、心のすべてを閉じきってるように見えた。
彼の口許は微笑の形をとっているが、それによって全ての感情を隠していた。瞳は、暗い夜の空を切り取ってきたように闇色に染まり冷たさしか伺えない。もし、今初めて逢ったのなら逃げ出していたかもしれないとすら、思う。
龍星はそんな困惑している毬の視線にも思考にも気づかぬ素振りで話を続ける。
「互いの立場上越えられない問題もある。話は簡潔に行こう。
まず、こちらから朗報がある。
妹君の御髪を手に入れた」
はっと、少年が顔を上げる。
美貌を感じるような顔ではない。
ごくごく普通のありふれた顔に見えたが、その瞳は驚きに溢れていた。
「どうやって、ですか?」
家中の者の問いに、和子は答えなかったのだ。
夜の内にどこかで、その長かった髪をばさりと切り落としていた愛しい妹を思って、少年こと右大臣家の長男、高階唯亮(たかしなのただあき)の顔に翳が落ちた。
「蛇の道は蛇、というヤツさ」
龍星は軽くいなして明確な答えを避ける。
「それを、……返していただけるのですか?」
唯亮は不安げに聞いた。
にやり、と、龍星の唇が釣りあがる。
「もちろん、ただでというわけには行かない。
なにせ、私の依頼人を呪詛で殺そうとしたのはそなたの父親なのだから」
毬は心の中ではっと息を呑んだ。
……この男は、右大臣家の息子。
自分の父親に害を及ぼそうとした相手。
その瞳に浮かぶ不審と不安の色を隠しきれず、思わず扇子で顔を覆った。
「几帳の向こうにいるといい」
龍星は毬の手を掴んで、優しくそう言った。
彼女の方だけを向いたその瞬間だけ、瞳の色が甘やかに煌いた。
おそらく、御所ではいつもこのような表情で仕事をしているのだろうと察し、ゆっくりと視線を逸らす。
それは、毬の知っている龍星とはもはや別人と言っても過言ではなかった。
怜悧で、心のすべてを閉じきってるように見えた。
彼の口許は微笑の形をとっているが、それによって全ての感情を隠していた。瞳は、暗い夜の空を切り取ってきたように闇色に染まり冷たさしか伺えない。もし、今初めて逢ったのなら逃げ出していたかもしれないとすら、思う。
龍星はそんな困惑している毬の視線にも思考にも気づかぬ素振りで話を続ける。
「互いの立場上越えられない問題もある。話は簡潔に行こう。
まず、こちらから朗報がある。
妹君の御髪を手に入れた」
はっと、少年が顔を上げる。
美貌を感じるような顔ではない。
ごくごく普通のありふれた顔に見えたが、その瞳は驚きに溢れていた。
「どうやって、ですか?」
家中の者の問いに、和子は答えなかったのだ。
夜の内にどこかで、その長かった髪をばさりと切り落としていた愛しい妹を思って、少年こと右大臣家の長男、高階唯亮(たかしなのただあき)の顔に翳が落ちた。
「蛇の道は蛇、というヤツさ」
龍星は軽くいなして明確な答えを避ける。
「それを、……返していただけるのですか?」
唯亮は不安げに聞いた。
にやり、と、龍星の唇が釣りあがる。
「もちろん、ただでというわけには行かない。
なにせ、私の依頼人を呪詛で殺そうとしたのはそなたの父親なのだから」
毬は心の中ではっと息を呑んだ。
……この男は、右大臣家の息子。
自分の父親に害を及ぼそうとした相手。
その瞳に浮かぶ不審と不安の色を隠しきれず、思わず扇子で顔を覆った。
「几帳の向こうにいるといい」
龍星は毬の手を掴んで、優しくそう言った。
彼女の方だけを向いたその瞬間だけ、瞳の色が甘やかに煌いた。