砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
「私ね、去年まで嵐山に住んでたの。
 そこでは、私のことお姫様って扱う人も居なくって、男の子たちと一緒にああやって野山を駆け巡ってたんだ。
 なんか、羨ましいなって思ってみてたの」

「なんだ、そんなこと」

 と、思わず口走ってしまうのが、雅之だ。
 良く言えば実直、悪く言えば愚直。

 毬はむっとする。
 しかし、雅之は気にもせず毬のまだ小さめな手を取ると、迷いもせずに歩き始めた。

「何処に行くの?」

「きっと毬が気に入るところ」

 言うと、毬の速度を気にしながらも若干脚を速める。
 結果、半ば走る形になった毬は、本人も気付かぬうちに楽しそうに笑っていた。

 屋敷の奥でじっとしているよりも、こうやって駆け回ることのほうが、ずっとずっと好きなのである。



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