君が見たいから ~ Extra ~

 え? と顔を向けるのとほとんど同時に、肩に我が物顔の強い腕がかかった。いきなりぐいと引き寄せられる。

 気が付いたときには、すでに唇を奪われていた。

 芳醇なコーヒーの味がするキス。心行くまで彼女の唇を味わった後、ようやく顔を上げたとき、ソンウォンの目には、思わずどきりとするような優しく深い色が浮かんでいた。


 まるで引きこまれるように、じっと見つめ返してしまう。


 隣にゆったりと座って、何の遠慮もせずに好きなだけ夫を眺められる……。


 当たり前のことだけれど、これは妻だけに許された極上のぜいたくでもある。

 そういえば、彼がこんなにリラックスしているのも久し振りかもしれない。

 今四半期は、責任を持っていた大きな取引のせいで、いつもどこか緊張し、家に居るときでも、心はビジネスの世界に飛んでいたような気がする。


 32歳になったソンウォンは、大宝グループの中枢に立ち、もっぱら海外事業の指揮を取っていた。

 彼自身は、家庭で滅多に仕事内容など話さない。

 だが、従弟のチョルヨンによれば、次々とグループの海外向けビジネスプランを打ち出し、先頭に立って展開しているらしい。

 
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