モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
二章

焦燥―姫乃

しとしとと、雨の降り続ける
外は薄暗く、部屋の中まで
陰湿な気配でいっぱいになる。

じりじりとした感触が胃を
中心に全身をはいずり回る
気分の悪さ。

吸血鬼に誘拐されて一週間が
経った姫乃は、何度目かもわからない
焦燥感と一人で戦っていた。

ここにきてから、ずっと、
奇妙な不安が付きまとっている。

自分の感覚がくるっているというか、
現実感が薄いというか。

毎日、何かがおかしいと感じているのに、
その正体がよくわからない。

例えるなら、夢の中で早く起きなきゃ、と
焦っているような。

それに。

「…沙羅…。」

誰もいない凍夜の部屋で大事な妹の名を呟く。
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