モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~

逃走―凍夜

「お嬢様が不審な行動を
おとりです。マスター。」

たまたま、その場に居合わせた
凍夜は、ノークスの従僕の
報告に、ため息をついた。

報告を持ってきたのは、
ノークスが好んで使う少女の
姿の従僕の一人だった。

この従僕は猫の姿に変じる
ことができる。

そうして、姫乃はいつも
こっそり見張られているから、
念の為忠告しておいたというのに。

「…彼女は今、どこです?」

「2階の階段を下りておいでです。」

あきらかに苛立った様子のノークスが、
無言で目を閉じる。

おそらく、姫乃が逃げだす現場を
おさえるために、城内の全ての従僕の姿を
くらますよう指示しているのだろう。

全ての従僕に指示を出し終えた
ノークスは、凍夜の方を向き直る。

「貴方のお気に入りは逃げ出したそうですよ。」

「そうらしいね。」

「貴方が甘やかしたから、つけ上がったのでは?」

「僕がどうしようと僕の勝手だし、
彼女の性格なら遅かれ早かれ
こうなると思ってたけど?」

「逃亡を読んでいて、何故我々の
弱点を教えたのです。」

「僕はあの程度のことを知られたからって、
困るような軟弱な生き物じゃない。」

「…。」
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