光のもとでⅠ
 ホームルームが終われば私は保健室へと移動する。
 廊下を歩いているときには先生とそれ相応に会話をしたはずなのに、私はなんの話をしていたのか、どんな受け答えをしたのか、全く覚えてはいなかった。
 保健室では、湊先生がいつものように窓際のデスクでノートパソコンに向かっていた。
「先生……唯兄、どうしてるでしょう。蒼兄は大学へ行ったのかな……」
「気になるの?」
 先生は椅子ごとこちらを向いた。
「気になります……。朝はなんだか頭がちゃんと回っていなくて、バタバタ流れ作業みたいに用意してご飯食べて出てきてしまった気がするので……」
 家を出るのにゲストルームへ戻っていたら、きっとあんなふうに玄関を出ることはできなかっただろう。
 きっと、家を出る前に蒼兄の部屋を見に行ったと思う。
 あ……だから十階での朝食だったのかな?
 静さんがいるだけでその場の雰囲気が全く違うものになっていた。
 いつもいる人ではないからなのか、それとも本来そういう雰囲気を纏っている人なのか――。
 なんだか静さんと蔵元さんのトラップに嵌った気分だ。
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