光のもとでⅠ
 静かに演奏を終えると、唯兄が無言で泣いていてびっくりした。
「リィ、ありがと」
 と、鼻声で言われる。
「……唯兄?」
「大丈夫……。ただ、色々と思い出すことが多くて――でも、やっと泣けた気がする」
 唯兄は細身の身体を丸く丸く縮こめた。
 私は蹲っている唯兄を抱きしめるように腕を回した。
 言葉だと、何を言っても薄っぺらいものになってしまう気がしたから。だから、今はぬくもりを――。
 唯兄が泣きやむまでずっとそうしていた。
 そこへ三階からお母さんが下りてきて、私たちを見て事態を察したのか、
「そろそろお昼だわ。唯くん、手伝ってくれる?」
「もちろんっ」
「翠葉は少し休憩。ベッドで横になっていなさい」
 私はふたりに付き添われて自室へ戻り、ベッドに横になった。
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