光のもとでⅠ
 秋斗さんは呆気に取られた状態で、その髪の毛を手に受け取った。
 けれども次の動作も言葉もない。
「それだけじゃ足りませんか……? でしたら――」
 右サイドの髪の毛に手を伸ばそうとした瞬間、
「やめてくれっっっ」
 声の大きさに驚き、手からハサミが落ちた。
 私はそれを気取られないようにそっとハサミに手を添える。
「なら……今すぐこの部屋から出ていってください。私は誰にも会いたくありません。ここに誰かが必ずいるというのも、私が望んでいるわけでも願ったわけでもありませんから」
 あと一息……。
 顔を上げ、右側にいる秋斗さんを真正面から見据えた。
「もう、来ないでください」
 けたたましい足音がすると、唯兄が部屋に入ってきた。
「リィっ!? 秋斗さん、何がっ!?」
 秋斗さんはその声に振り返り、
「――悪い、若槻。彼女を頼む」
 と、足早に部屋を出ていった。
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