光のもとでⅠ
「じゃ、あとは俺と海斗で保健室まで連れて行くから」
 と、右腕を取られる。
「司先輩、大丈夫。まだひとりで歩ける」
「……翠、階段見えてる?」
 階段……?
「翠葉、目の前見えてないだろ。あと一歩で落ちるぞ?」
 海斗くんの言葉にドキリとした。
 家の中はともかくとして、まだ学校内での行動は無理か……。
 学校は家と違って空間の目安となる家具がないため、感覚で歩くにはもう少し鍛錬が必要そう。
 実のところ、席を立ったときから徐々に視界がきかなくなってきていた。
 きっと立っている今も少しずつ血圧が下がっていっている。
 そんな状況では視界も霞み、焦点も合わなくなっていく。
「……何も言い返せないのって悔しいな」
「翠葉、使えるものは使いなさい? この藤宮司を使うだなんてめったにできることじゃないわよ?」
「そうだよなー。たいてい使う側にいるよなー。ずりーことにさ」
「先輩、すごい言われようですね」
「……どうでもいいけど、もう時間がないから、あまり強情だと横抱きにするけど?」
 言われて口を噤む。この先輩はやると言ったら絶対にやる気がするから。
 なんだか有限実行って言葉がとてもしっくりくる人に思えた。
 仕方なく、素直に支えてもらって階段を下りることにした。
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