光のもとでⅠ
 ゆっくりと立ち上がったけれど、もう眩暈は避けて通れない。
「このまま待つんだろ」
 司先輩の声が上から降ってくる。
「はい……。座ってもまた同じことの繰り返しなので」
「……その役、俺だけの特権だったんだけどなぁ……」
 蒼兄の声のあと、その場にいる人たちの笑い声が聞こえてきた。
「こういうのは何人いてもいいじゃない」
 と、湊先生の声が聞こえると、バシバシ、と何かを叩く音が聞こえた。
 即ち、湊先生に蒼兄が叩かれた、というところだろうか。
「蒼くんは翠葉ちゃんを独占できなくなるのが嫌なのよねー?」
 と、栞さん。
「あぁ、蒼樹は翠葉が中心に世界が回ってるからなぁ」
 と、お父さん。
「そうそう。家族が三人溺れていたとしても、絶対に翠葉を一番に助けるわね」
 と、お母さん。
「蒼樹くん、君、まともに恋愛できてるか?」
 ひとり毛色の違う言葉をかけたのは静さんだった。
 蒼兄の一言でここまで話が続くなんてすごい……。
「蒼兄も一緒に見にいくのでしょう?」
 声だけで参加をすると、
「俺はさっき見てきたんだ」
「行かないの……?」
「そんな不安そうな顔するな。今は司の手があるだろう?」
 そう言われて、支えてくれている手を意識する。
「うん……」
「だから、今は俺がいなくても大丈夫だ」
「そっか……そうだよね」
 蒼兄は私の手を引いてくれる人。今までずっと私の道標だった。
 けれど、高校の先はそうはいかない。ならば、少しずつ自分の足で歩きださなくては……。
 そのリハビリに司先輩やほかの人が手を貸してくれているのだ。
「先輩、視界回復しました」
 顔を上げると、先輩は何も言わずに階段へ向かって歩きだした。階段を前にすると、
「足元気をつけて」
 と、前を歩くように促された。
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