光のもとでⅠ
 静さんの家は秋斗さんの家と少し似ている。
 茶色い床に白い壁、家具も茶色に統一されていて、アクセントに使われているのはキャメル色のソファーやクリーム色が主体となった絵画。そして観葉植物が適度に配置されている。
「ここは静さんのプライベートルームなんですよね……?」
 気づけばそんなことを口にしていた。
「どういう意味だい?」
「え、あ……どういう意味だろう――」
 プライベートルームだけれど、やっぱり生活感を感じなかったから、かな。
 週に二、三日しか帰ってこれないとそうなってしまうものなんだろうか。
「あのさ、考えるのはかまわないけど、今は足元見て注意はそこだけに払ってくれない?」
「ごめんなさい」
「司は容赦ないな。そんなだと女の子に嫌われるぞ?」
「そのほうがいいこともある」
 いいことってなんだろう……。
 司先輩の思考回路をトレースしてみようと試みる。
 女の子は苦手、だから容赦なく話して嫌われてもかまわない?
 安直すぎるだろうか。でも、司先輩ならあり得る気がしてしまう。
 本当に女の子が苦手なんだな……。
 あれ? でも、それっていうのはやっぱり私は女の子から除外ということ?
 それはそれでちょっと悲しい気もする。
「でも、嫌われたくない子もいるんじゃないか?」
 静さんの話はまだ続いているようで、私の前を歩く静さんから司先輩に質問が投げられる。
「たとえそういう対象がいたとして、それが俺って人間を理解してくれないと意味がないですから」
 全然意味がわからない。けれども静さんは「なるほどね」と面白そうに笑った。
 "対象"が女の子だとして、その人が司先輩の性格を理解していないと意味がない、ということになるのかな。でも、好きな人を"対象"扱いするところがすでに司先輩ならではな気がする。
「翠、考え込む余裕があるなら、この手放すけど?」
「えっ、あ、なんで!?」
「首、右に傾いてる」
 なんですか、それ……。
 先に階段を下り終えた静さんがくつくつと笑いながら、
「ここが九階だよ」
 と、部屋の電気を点けてくれた。
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