光のもとでⅠ
 ダイニングにいる俺を横目に、母さんはハナと一緒にリビングへ移動した。
 そして、ハナと遊ぶためにボールを手に取り、
「あ……それ、美味しくないけど全部飲んでね」
「え?」
「タイムだけだと苦味が強くなるから、と思ってフレッシュミントをたくさん入れたのだけど、やっぱり味がタイムに負けてるの。でも、身体にはいいはずだから、薬草茶だと思って全部飲んでね」
 にこりと笑って背を向けられた。
 カップの中身がおぞましい飲み物に見えたけど、香りはそれほど苦手なものではない。
 飲める熱さに冷めたお茶を口に含むと、見事なまでに薬草っぽい苦味が口いっぱいに広がった。
 思わず咽ると、
「ちゃんと飲んでね?」
 留めのような一言とともに視線が固定される。
「……いただきます」
 俺は一気に飲み干しキッチンへ向かった。
 純粋なる一杯の水を得るために――。
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