光のもとでⅠ
 四時になると引越し業者が来て、ハープも厳重に梱包され無事にトラックに積み込まれた。
 ハープが部屋からなくなると、想像していたとおりの空間になる。
 寒々しい、寂しい部屋に思えた。
「どうした?」
 蒼兄の穏やかな声に顔を上げる。
「ん……広いな、と思って」
「ハープがないだけでこんなに広く感じるものなんだな」
 と、蒼兄も部屋を見渡す。
「うん……。次にこの部屋に帰ってきても自分の部屋って思えるのかがすごく不安……。ハープがないだけなのに、違う部屋に思える」
 するとベッドの端に腰掛けた蒼兄から優しい手が伸びてきた。
 私の髪を指に巻きつけ、
「大丈夫だよ。翠葉がここに戻るときはハープも一緒だ」
「……そうだね」
「さ、行こうか」
 それにコクリと頷いてみせると、視線を感じてそちらを見る。
「ね? 仲良し兄妹でしょう?」
 栞さんと高崎さんがドア口に立っていた。
「自分は高校のときから蒼樹を知っているので、あの天然シスコンヤローは成長なしか、って感想くらいですよ」
 なんだか新鮮。蒼兄のお友達、というものが……。
 秋斗さんや司先輩と話している感じとはまた違う。
 蒼兄の高校時代を知らないわけじゃない。でも、学校での蒼兄は知らない。
 どんなふうだったのかな……。
 私は色んな蒼兄を知っていると思う。でも、それのどれもが"兄"の顔でしかなかった。
 高崎さんに蒼兄のお話聞きたいな……。
「葵、翠葉に余計なこと吹き込むなよっ!?」
「はいはい。翠葉ちゃん、なんでも教えるから訊いてくださいね」
 にこりと笑みを向けられた。
「あのっ、たくさん知りたいです」
「喜んで」
「おい、葵っ!?」
 そんな光景すら新鮮に思えた。
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