光のもとでⅠ
 言われている内容的には皮肉が含まれているけれど、翠が話す分には嫌みっぽく聞こえない。
「でも……できれば使いたくない。今の私にはその呼び方はよそよそしく思えるから。『司先輩』はケースバイケース。それがいいならそうする。でも、今一番しっくりくる呼び方は『ツカサ』なの」
 その答えで十分なのかもしれない。
 でも、その先を求める自分がいる。
「じゃぁ、なんで司先輩に呼び方を戻そうとした? ケースバイケースって何」
「……それは、そんなことで気が済むならそれでいいと思ったから。ツカサのファンの人たちは、自分たちがそう呼べないから、だからそういうふうに呼んでいる私が気に食わないだけだと思う。その女の子たちが、ツカサのことをそう呼べるようになるのには時間がかるでしょう? だとしたら、それまで私も先輩をつけて呼べばいいかな、って……安直かもしれないけど、そう思っただけ。でもね、藤宮先輩と呼ぶつもりはなかったよ」
 翠は何も考えていなかったわけじゃなくて、ただ――いつもどおり、翠独自の変な見解があって、それに則って名前を呼んでいたらしい。
 そして、その変な法則の中で自分の呼称は守られていると思っていい気がした。
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